

ガンや心疾患、脳卒中などの病気に比べて、「動脈硬化」にはあまりピンとこない人が多いのではないでしょうか。しかし、動脈硬化はさまざまな病気の原因になる症状で、放置していると死に直結することもあります。動脈硬化になるきっかけは生活習慣病や肥満など、中高年にとって身近な症状です。
特に要注意なのは、生活習慣病や肥満に悩む中心世代であり、かつ現役世代であるがゆえに無理もしがちな50代です。このたび、50代を代表して元力士・舞の海秀平さんが、動脈硬化に詳しい循環器専門医、佐賀大学循環器内科主任教授・内科主任教授、野出孝一先生にお話を伺いました。
── 舞の海さん、動脈硬化ってご存じですか?
舞の海 よく耳にしますけれども、詳しくはわからないです。動脈“硬化”だから、血管が固くなるということなのかな。野出先生、動脈硬化ってどんな病気なんですか。
野出先生 動脈硬化は「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と言われています。動脈硬化が進んでも、胸が痛い、足が痛いといった明らかな症状はありません。しかし放っておくと、心不全や狭心症、心筋梗塞や、脳梗塞、脳出血など、日本人の死因の多くの比率を占める怖い病気を引き起こしてしまいます。
舞の海 「沈黙の殺人者」って、インパクトありますね…!
── 日本人の死亡原因の内訳は、1位はガン(悪性新生物)ですが、2位は心疾患、3位は脳血管疾患となっています。この2位・3位は、まさにいま野出先生が「動脈硬化が原因」だとおっしゃっていた心不全や狭心症、心筋梗塞、脳梗塞や脳出血に該当します。つまり、日本人の死因の2割以上が、動脈硬化が原因だということですね。
舞の海 えっ、ということは、ガンの次に怖い病気ってことですか?
野出先生 そうなんです。ただ、ガンはさまざまな臓器や組織で発症しますが、心疾患と脳血管疾患は心臓と脳という2つの臓器しかありません。だからこそ、動脈硬化が原因で起こる病気はそれだけ怖く、かつ重要なものだといえます。
舞の海 動脈硬化について、詳しく教えてください。
野出先生 動脈硬化とは、心臓から全身に血液を送り出す血管(動脈)が硬くなって、拡張できなくなることです。高血圧や高血糖の状態が続くと、それが原因で血管内にコレステロールが溜まって「こぶ」ができ、動脈硬化の原因になって血管が狭くなります。
こぶが破れてしまうと、血小板や赤血球が集まって血の塊ができるのですが、それによって血管が完全に詰まると、心筋梗塞や脳梗塞などの病気を引き起こします。
舞の海 動脈硬化で「あれ、おかしいな」って気づく時は、どんな症状になるんですか?
野出先生 心臓や脳のどこの血管が詰まりかけているかによって、症状が異なります。例えば心臓の冠動脈の場合は、じっとしている時は症状がないのですが、運動したり歩いたりすると胸が痛い、苦しいという症状が出てきます。脳の場合は、手足が動かなくなる、体の片側だけ麻痺がおこる、言葉が出にくくなるといった症状です。でも、そういった症状が出てしまっている時はかなり進行している状態です。これが「サイレント・キラー」と呼ばれる理由です。
舞の海 日本人の死因の2割以上を占める病気なのに、自覚症状がないって恐いですよね。
野出先生 ちょっと怖いと思うくらいのほうが安心かもしれません。症状がないうちにしっかり検査をして、動脈硬化を見つけることが大事です。
── 舞の海さんは、何か自覚症状を感じたことはありますか。
舞の海 そういえば、たまに胸が圧迫されているような感じになることがあります。
野出先生 狭心症の症状の一つは、胸の圧迫感です。ただし、運動している時ではなく、じっとしている時に圧迫感を覚える程度なら、動脈硬化ではなく自律神経の影響かもしれません。いずれにせよ、そのような自覚症状を感じたら、1回は検査を受けたほうがいいと思います。
── 胸の圧迫感のほかに、気をつけたほうがいい自覚症状はありますか。
野出先生 軽い脳梗塞の場合は、めまい、ふらつきなどがあります。また、一瞬血栓が詰まった時には一時的に目が見えなくなる、意識がなくなる、手足の力がなくなるといった脳梗塞の前兆があります。こういった症状を感じたら、検査や診察を受けることが大事です。
舞の海 でも病院の検査って大変そうで、ついつい後回しにしてしまうんですよね。
野出先生 一般的に病院の検査は大変なイメージがありますよね。でも最近の新しい動脈硬化の検査なら、服を着たまま5~10分程度で終わるものがあります。比較的痛みもなく簡単に、全身の動脈の固さや詰まりをチェックできます。
舞の海 へえ、そんなに簡単な検査もあるんですね!
(まとめ)
動脈硬化のおそろしさと、検査の大切さを知った舞の海さん。次回は、舞の海さんの実際の検査結果をもとに、野出先生にアドバイスを伺います。